サバンナ作戦

By Nomadでオートキャンプ - 8月 17, 2020

・・・現地に向かう車窓には
ポツポツとはえる灌木、低い草むら
と広い空が一面に広がっていた。
過去、主に高地の作戦地帯を転戦してきた男には
なんだか殺風景に見えた。

今回、ベテラン曹長から集結命令を受けた
作戦地域はサバンナ地帯である。
そばには川が流れているが赤道に近いため
日中の気温は日陰でも35度を超えるだろう。
一方で、サバンナ気候特有の夜間低温には
留意せよと曹長からの警告があった。

 
男は照りつける太陽の下で、
長袖とブランケットを車から取り出し装備を確認していた。
そばを通りかかる半裸の現地民親子の視線が突き刺さる。
あいにく「初めてのスワヒリ語会話」読本が
見つからないため軽い会釈で追い払った。

指示書によると今回の作戦概要はこうだった。
-15h 男が単身潜入 小隊用橋頭堡確保
 0h 小隊集合 作戦開始
+30h 作戦終了 解散

強烈な高温と日差し、濃密な湿度、
そしてタフな戦いとなる予感が
静かにあたりを満たしていた。


-12h、男は単独での先行作戦を開始した。
 もちろん、右側に設置したジャグは空っぽのダミーである。
・・・そもそも飲料水をうっかり忘れてきている。
先の大戦で砂漠のキツネとよばれたロンメル将軍にならい、
素人感を覆い隠すための演出に過ぎないことは
現地民でもわかりはしまい。 
 
ベテラン演出用の着火剤&蚊取り線香。
森林香ではなくただの金鳥製(屋外用)であることが
素人所以である。
 
同じくベテラン感演出用小道具のナイフ。
一切使用したことない30年前の新品である。
 
男は1年ぶりくらいに一式道具を展開していた。
キャンパーズコレクション、
キャプテンスタッグ
ピーコック魔法瓶工業という
超一流メーカ製品を主力として
構成された超高級ギア群である。
もちろん、テントは今回も封印したままである。  
 
自称先祖が英国紳士だったため
コーヒにうるさいという男は当然、
こだわりの7イレブン紙パックアイスコーヒーである。
残念なことに誠に旨い・・・。

当初、迷いなく紙コップに注いだが、 
ベテラン的演出上、
やもなくチタンカップに移し替えたという。 
生き別れになっていた焚火台と
二年ぶりの感動的再会である。
 
翌朝、曹長は男がこれを展開している
さまを見て腰を抜かしていた。
 
「焚火台もっていたの!?何につかったの??」
 ・・・次回は曹長の藁人形をホイル焼きに
するためだけに使おうと
男が固く誓った瞬間だったという。

焚火とスキレットで調理すれば
コンビニ冷凍チャーハンですら、
本格中華風料理に早変わりである。
砂漠における焚火料理の迷彩効果は極めて高い。
 

いよいよ低温となると聞いていた夜間。
・・・現実は湿度・気温ともに最高潮のままである。
明け方でようやく25度近くまで落ちただろうか。
 日中にわざわざ取り出していたブランケットは
真っ先に車外へ放り出した。
 不眠症のナメクジ気分を味うことができる男は
己の幸運を呪ったという。
曹長の忠告はいつもどおり正しいのである・・・。


男が寝返り体操を繰り返すうちに
いつのまにか夜が明けた。


いよいよ0h。
最初に現れたのは5MTの青い矮星を
駆るミラ伍長である。

この暑さの中でも虫と暑さを警戒して
冷却機能性長袖と長ズボン着用である。
最年少とはいえ普段はソロ料理ソルジャーとして
各地を生き抜いてきただけのことはある。

程なくして赤っぽい彗星を駆るベテラン曹長が現れた。

伍長同様、虫と暑さを警戒したという曹長は
半袖半パン姿である。
玄人と素人が一見見分けがつかない如く、
川遊びの現地民と歴戦のベテラン戦士の判別は
極めて難しいのである・・・。


現地時間0830
「ブシュ!ブシュ!」
サイレンサー付き拳銃のようなグモった2連射音で、
作戦が開始された。
この後、実に14時間にわたる激戦の幕開けだった。


先手必勝、
男はQから託された仕掛け爆弾料理を
立て続けに見舞った。

結果、少なくとも味方の体温を大幅に上げるという
大ダメージを与えることに成功したようだった。
 

しかし、この長時間戦闘において、
特筆すべきは伍長の暗躍だろう。
旧ドイツ軍がV1ロケットと同様に戦略兵器化を検討していたという
スヴェア123型ロケット。
これが推進装置たる証は
その特異な燃焼音で一聞瞭然である。
 
しかし伍長はこれを逆さにして
コンロ代わりにするという。
大変奇特な男である。



よもや野戦食で見事なゴーヤチャンプルーがでてくるとは
夢にも思っていなかったという。
当然、旬である夏野菜が
美味しくならない理由は何処にもない。
 
つづいて、
バケットを炭焼き職人である男があぶった結果、
お得意の炭化魔法を施していた。
 ・・・この時、男は伍長が怖くて
目を合わせれなかったことは
機密事項である。
 
カリカリ焦げ焦げバケットに
海鮮アヒージョである。

・・・サバンナの真ん中で
まさかの地中海料理の香りである。
  

とどめはアヒージョのオイルを混ぜ込んだ
トマトパスタであった。
 
このショットは曹長も伍長も撮影していない幻の写真である。
  伍長は調理に忙しく、
曹長は船漕ぎに励んでいたためである・・・。
 
このように彼は酔いながらも、
ここが酷暑のサバンナであることを
忘れさせるレベルの一級品料理を
昼夜を問わず矢継ぎ早に繰り出してきたのである。

湯煎至上主義者の曹長や、
Qが仕込んだ種に火を通す
男の調理レベルとはわけが違う。

過酷な環境下にも関わらず
伍長からあふれるでる「食事」へのリビドーと、
それを叶えるテクニックに
曹長と男は圧倒的な格の違いを思い知らされたという。


その夜、前日とはうって変わって気温は23度まで下がった。
各自ロクに睡眠をとれていなかった
小隊員たちは泥のように眠ったという。
 
 それにしてもほぼ徹夜明けから14時間飲み続けた
曹長と伍長はまるで無駄にタフマンである。
超無能力者ともいえるだろう・・。


翌朝、再びサバンナに太陽が登った。



朝いちから伍長の卵焼きに見とれている間に
気持ちの良い時間帯は過ぎ去っていた。

再び照りつける太陽のもと、
伍長と男がなんとか撤収を終えた頃、
曹長だけはプシュとぐもった音を上げていた。

訊けば残った氷だけを糧に、
曹長単独でこのまま作戦を継続するという。


過酷な環境下でも、
単独作戦を継続しようとするモチベーションが、
曹長のリビドーあるいはタナトスからくるのか、
もはや神ですらわからないだろう。


伍長と男は少し苦笑いをしながら、
この曹長はやはり格が違うという事実を
互いの目でちらりと同意したあと、
それぞれ曹長と握手を交わし現場を後にした。


男が見上げた空に
夏の夕暮れが広がっていた。

---完---

※この作品はフィクションです。
実在する個人団体に一切関係はありません。
多分。

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2 コメント

  1. おはようございます。

    ぐふぁ!写真のリンクが等倍サイズじゃないですか!ビックリしました・・・笑。

    3枚目のイケメン写真を等倍鑑賞。ヤバい写りなのは当然なのですが、私のノートPCでは等倍で写すとそのほとんどが背景ボケの中を彷徨うことになってしまいました、笑。

    後日撮影情報付きの作品録も楽しみにしております!!

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  2. Taccさん、コメントありがとうございます!
    あり、なんで等倍表示に・・。あ、ホントだ。苦笑
    特になにか設定を変えたわけではないのですが・・・(笑)

    このあと、撮影情報付きで、全8回くらいでちまちまあげます。
    よろしくお願いいたします!

    返信削除