「・・・2万5千円~となります。」
・・・銀座のど真ん中でそれを聞いた男は、
ただ天を仰いだという。。。
7月某日。
・・・東京は銀座にある
キヤノンサービスセンタ。
平日夕方でも人影は多い。
訪問客はなんとなく
プロフォトグラファーらしき
シルエットが多いなか、
ビジネスバッグとスーツ姿の男が
小型のカメラを大事そうにかかえ、
修理カウンターに前で
呼び出しを待っていた。
・・・それまで快調だったM3が
突然電源が入らなくなったのだ。
一大事と、わざわざ銀座くんだりにある
キヤノンサービスセンタまで
直接出向いたのである。
・・・男の順番がくる。
M3を手渡された担当者は
基本的な動作確認。
結果、最低でも基盤と液晶の
交換が必須との診断。
そしてそのコストは冒頭の「2.5万円~」。
・・・事実上死亡診断である。
サービスマンに悪意はないだろうが、
その金額なら普通に
上位機種へ買い替え可能なデジカメの世界。
この金額で修理することに合理的な
意味はなくなってしまう。
「・・・連れて帰ります。」
男は大事そうにカメラを抱えたまま
無念そうに踵を返した。
・・・EOS M3 + 22mm単焦点レンズ。
いいやつだった。
1年前男が手に入れた
初めての一眼を名乗るカメラ(中古)。
各地のキャンプ場を昼も夜も彷徨った相棒。
コンパクトデジカメとは言えないが、
このボディサイズにAPSサイズのセンサーを搭載。
F2.0レンズとあわせることで、
まがりながらも星空撮影まで
できる能力がある事実を
10年まえに誰が予想できただろうか。
右側上部と背面にある操作系ダイヤル。
もちろん「?」な部分はゼロではないが
液晶内のソフトウェアのできと合わせて考えると、
どっかのS社にくらべて
非常にすぐれたUIだった。
M3とは夏に出会い。
秋を越え
冬を過ごし
年を超え
早春と
新緑を駆け抜けた。
・・・もういちど電源ボタンを入れた。
通電時に聞こえるはずの
かすかなレンズ駆動音は
もう聞こえない。
余生はゆっくりと自宅棚で
EF-M22mmレンズの固定部品として
活躍してもらうことにした。
しばしの休養である。
そう、いつか男がキヤノンに
返り咲く日が来た時のために・・。
完
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