ベテラン氏と駆け出し男のギャップキャンプ①

By Nomadでオートキャンプ - 7月 03, 2020

「では3日後、現地で。」


男の経験にあるキャンプ日程調整で、
こんなにあっさり決まることはなかった。
その会合が互いの事情をよく知らない
初見者同士ならなおさらである。


昨年秋より諸事情で1週間以上先の予定が立てずらい男は
当面誰かとキャンプは難しいと感じており実際無理だった。
そんな中、ひょんな縁からこのベテラン氏との合流が冒頭会話のように
あっさり決まったことに驚いていた。


当日、徹夜で仕事を終わらせてそのまま早朝から現地入りした
ベテラン氏はすでに設営を終えているという。
男は昼をすぎて現地に到着。

※ベテラン氏撮影

雨はかろうじて止んでいた。

うす暗い初夏の森の雰囲気に包まれた場内を見渡すと、
100m先の木立に隠れているが異様な雰囲気を放つサイトがみえた。
他に見えるサイトとはあからさまに佇まいがちがう。
遠目にみてもDDタープの張りが美しいのだ。
駆け出しキャンパーの男が見ても見紛うことはない。


近づくと日焼けして引き締まった大柄の体躯が見えた。
年齢不詳で怪しさ満点の好壮年がベテラン氏だった。 


場内で今朝拾ってきたのちに割られたと思われるサイズの薪が
ローチェアの傍に大量に用意されていた。
一瞥しただけで野営への手練れ感がひしひしと伝わってくる。

半袖半パン姿と髭がないこと以外、
事前のテキストから感じたイメージと外見に
大きな違和感はない。

そう、ここまでは予定調和だった。


男が挨拶を軽くすまし、
遅れた設営時間を取り返そうとしたその時・・・。

ベテラン氏から挨拶のかわりなのか、
マシンガンのような与太話が火を噴いた。

一見すると無闇矢鱈な与太話にみえるネタは、
男が易々と乗っかりやすい内容で構成されていた。
明らかに意図ある乱射である。

殺気こそ感じないが
試されていると男は直感した。


いくら駆け出しとはいえ、
そんな見え透いた挑発に安易に乗る男ではない・・・
という理想とは裏腹に、
悲しいことに仕事柄男はすべての会話という
ボールに食らいついてしまう。
猫じゃらしを見た猫がそれをほっておけない如く
条件反射的反応なのだ。

ベテラン氏は、最初は正面に優しく、
次第に右に左に前に後ろへボールを乱れ打ちしはじめていた。

「しゃっせぇー、おんどれつぎひだりしゃーすごらぁ!」
(原音ママ)
(「君はどこまで捕れるのかな。次、左へ強打!」訳:へカ田奈津子)

無酸素運動的にボールへの条件反射をつづけて薄れゆく意識の中で、
なぜ東京生まれを自称するベテラン氏がこんなにも
格調高い伝統的関西訛りを話せるのか、
男は不思議に感じたという。

すくなくともベテラン氏の出生あるいは前世が、
京都の公家とは縁もゆかりもないことだけは理解できたという・・・。


出会いから永遠の3分が過ぎたころ、
男のトーク能力や知識レベルは
ベテラン氏に概ね把握されてしまっていた。

今回こそ寡黙なミステリアスキャンパーに
なろうという男の長年の野望は
カップラーメンができあがる程度の
僅かな時間であっさり潰えた。

やはりベテラン氏ともなると、
事後のコミュニケーションを円滑にするべく
複数人キャンプの都度このような
高度な掛け合いを冒頭にこなしてきたのであろう。
駆け出し男とは格が違うのだ。


とはいえ、テキストと実人格のギャップが尋常でない。
ハードボイルド小説を愛してやまないベテラン氏の、
ハードボイルド性格偏差値は極めて低いのだ。
・・・もはやJAROも匙を投げ出す詐欺レベルである。

想定外のタフな夜になることを
男は早々と覚悟したという・・。


そして何よりもこの3分で最も忌むべきことは、
隅っことはいえここは紛れもなく関東平野の森の中にもかかわらず、
関西訛りの売れない芸人風の怒声と爆笑を撒き散らす二人のおっさんが
オーパーツのように実在してしまったことだろう。

※ベテラン氏撮影

暇を持て余す神々のいたずらにより
仕掛けられたこの邂逅に男は戦慄していた。

※ベテラン氏撮影


・・・男は息も絶え絶えトークの連続ノックを遮り、
車を所定位置にとめたのち、
ようやくベテラン氏のサイト全景を見ることができた。

・・・このタープ。


・・・このギア。

シンプル、小型で一見頼りなく見えるモノが少量並んであった。
それらはベテラン氏の40年近い経験から
厳選されたエリートギア達なのだろう、
それぞれに長年使い込まれてきた形跡がはっきりと残っていた。


写真撮影と焚火を眺めるとき(寝落ち寸前)以外は、
迂闊なネタを矢継ぎ早に投げ込んでくる
なかばサイコパスなベテラン氏が
選んだものとは到底思えなかった。


さらに特筆すべきはこれらのギアではなく、
ベテラン氏の所作の全てである。


すべての行動に隙が無い。
いや迷いが一切感じられない。


ベテラン氏にとって、ガイロープを調整する、
食材を刻む、火を操るという仕草が
すべていつものルーチン作業と化していた。
これらはベテラン氏のありふれた日常なのだ。


写真の真理が高級機材にあるわけでなく
撮影者に内在するが如く、
キャンプのそれもまた高級ギアでなく
使う人にあることを
ベテラン氏がその広い背中で語っていた。


もしキャンプの神がこのベテラン氏をみたならば、
「よくぞ人の身でここまで練り上げたものよ・・・」
と、なかば呆れることだろう。


美しさすら感じさせるレベルまで昇華している
ベテラン氏の数々の所作のなかでも、
麦焼酎を深酒でおぼつかない手で巧みに操り、
一気に飲み干し、目に邪悪な光を宿す。
という一連の仕草は、
あたかも人間が呼吸するごとく自然な滑らかさだった。

グラスの中身をワインにかえれば、
ギリシャの神々ですらデュオニソス
見分けなど付きはしないだろう。


その一方で、麦焼酎の割モノを
グレープフルーツあるいはオレンジにするかで
腕を組んだままずいぶんと長考していたのは、
駆け出し男には及びもつかない
深遠な理由があるのだろうと思うことにした・・・。


到着からチェアに腰を下ろすまもなく、
駆出し男はベテラン氏との格の違いを
あらためて実感したという。
・・・色んな意味で、である。

つづく

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2 コメント

  1. こんにちは!

    ヘカさんのキャンプ記に掲載される写真、今回の写真は今までの写真とは全然質が違う印象です!85mmですか?24-70mmですか?はたまた16mm?撮影機材が気になります!

    被写体の力でしょうか?とても重厚感を感じます。一輪さんのギア渋すぎですね!

    続編も楽しみにしております!

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    返信
    1. taccさん、コメントありがとうございます。

      今回の写真、同行者の影響をもろに受けまして、彩度下げつつダーク気味でレタッチしております。(基本的には)
      明るい+彩度の高いレタッチですと、ギアたちが映えないったらありゃしませんw
      しかしまあ、taccさんの眼力にあらためて恐れ入りました!マジで。

      機材は24-70mm&85mmのみです。
      どっちかどっちかはtaccさんがじっと見ればわかると思います。
      ヘカはイマイチわかりませんが・・・w

      3m以上先に合焦面がある写真でやったらめったら写ってるのが85mm。
      1-2m程度で普通な写りが24-70mmってとこですかね。苦笑

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